【感想】白ゆき姫殺人事件(湊かなえ):設定の緻密さが秀逸な作品
僕は湊かなえさんを「ヒトというものを裏表なく、たんたんと描写する」人だと考えています。これまでには「告白」、「Nのために」を読みました。
今回は、そんな彼女の作品、「白ゆき姫殺人事件」を読んでみました。
内容(「BOOK」データベースより)
美人会社員が惨殺された不可解な殺人事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まった。同僚、同級生、家族、故郷の人々。彼女の関係者たちがそれぞれ証言した驚くべき内容とは。「噂」が恐怖を増幅する。果たして彼女は残忍な魔女なのか、それとも―ネット炎上、週刊誌報道が過熱、口コミで走る衝撃、ヒットメーカーによる、傑作ミステリ長編。
進め方としては、被害者の同僚や容疑者の両親が雑誌のライターへのインタビューに答える形式で進んでいきます。ここでは雑誌のライターの台詞は一切出てこず、あたかもそれぞれの登場人物が読者に語りかけるような気分が味わえます。
ミステリーと紹介されることがほとんどですが、実際には「犯人は誰なんだ!」、「トリックはどんなものなんだ?」といったミステリー要素よりも、「確かに人間ってこんなところあるよね」っていったところを楽しむ小説だと思います。
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事実に対する食い違い
「それぞれがそれぞれの認識に基づき、インタビューを受ける」ということで、当然、事実の食い違いなども発生します。しかし、それは湊かなえさんのミスではなく、あえてそれぞれの認識がずれていることを示すために描いているのです。
世界に起きている事象は唯一であるとしても、それは僕たちの両目、両耳などの五感を介して脳が認識した結果を世界だと捉えているわけで、それは僕とみなさんで違う可能性もあります。昨日のこと、一週間前のこととなると、記憶の劣化もあり、その証言に大きな食い違いが出てくることは否定できません。
別に、それぞれが嘘をついているわけではなく、ただただ認識にずれがあるというだけです。湊さんの作品はこうやって「人々の認識の違い」を浮かび上がらせるのが非常に上手だと思います。
ひとりの人間として
僕たちは普段、あらゆる場面でいろいろなフィルターを通して見られていますし、ふるまってもいます。教師、親、同僚、男性、女性など。しかし、本作品においては、ライターに対して、取材源を明かさないという前提で話しているため、そういうフィルターを外して話している人が多いです。また、本作品の両親は、両親でありながら、ひとりの人間としてインタビューに答えており、そのあたりの人間らしさが非常にうまく描かれています。
実は人間ってこんなものよ
とでも言われそうな印象も受けます。最近の流行りは「正義の反対はまた別の正義」であり、悪事を働いている人にもそうせざるを得ない理由がある、もしくはもともとは善人であったが、悪人にならざるを得なかった、というものでしょう。すぐに思いつく範囲だと「ナルト」のサスケや「暗殺教室」の理事長などがそうです。
そうやって、悪人の中の善意の気持ちにも共感させるというのが1つの手法だと思いますが、湊さんの作品では逆の手法を使っており、「普通の人」の汚い部分を丁寧に描いています。
しかし、湊さんは「汚い部分を描くぞ!」というより、「良いとか悪いとかではなく、人間ってこんな生き物でしょ」という考えで描かれていると感じています。
まあ、そういう意味ではすっきりしないというか、気持ち悪さが残る部分もありますが、これはこれで一読する価値があると思います。
ちなみに映画化もされていますので、興味がある方はぜひ。