【感想】望郷(湊かなえ):心のトゲが抜けていきます
島という閉鎖的な空間の中で紡がれた6つのストーリー。
瀬戸内海にある「白綱島」という島を舞台にした短編集です。
湊かなえさんらしくない本作品ですが、すごく良かったです。おすすめの作品。
内容(「BOOK」データベースより)
島に生まれ育った人々が織りなす、心の奥底を揺さぶる連作短篇集。日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作「海の星」収録。
無意識のうちに何かに縛られるというのは誰しもあると思います。
例えば、大人になって親元から独立していても、子どものときに受けた母の教えに縛られていたり。
母から物理的に解放されたとしても、子どものときに教え込まれた習慣というか「思考の癖」っていうのはなかなか直せないものだと思います。
大人にとって取るに足らないことであっても、子どもにとっては一大事ってことはまれではありません。
トラウマという言葉が適切かは分かりませんが、どんなものがその子の心にトゲを残すかは分かりません。
そして、そのトゲというのは、最初は小さいものであっても、トゲが刺さったままだとその周りも腫れ上がってきます。
上では大人と子どもの例を出しましたが「いじめっ子」と「いじめられっ子」でもこれは成り立ちます。
いわゆる「いじめ」と呼ばれるほどひどいものでなくとも(例えばちょっと悪口を言う/言われるっていう関係)、トゲを刺したほうはすぐに忘れちゃいますし、逆に刺されたほうはいつまでも覚えているものです。
「大人になったんだから、子どものときのことは許してよ」
「もう20年も前のこと、まだ根に持ってるの?(笑)」
というのをトゲを刺したほうは言いがちですが、トゲを刺されたほうは(その点においては)時間が止まっているということも少なくありません。
他人から見たら、大人から見たら「そんな小さいこと気にしてるの?」と言われることであっても、その小さかったトゲが、いつの間にか大きな影響を持っていることもあります。
本作品ではそんなトゲが抜かれていくお話が集まっています。「イヤミス」を期待して読むと予想外の展開になるのでお気をつけください。
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