【感想・書評】少女(湊かなえ):前作よりも後味の悪さがパワーアップ
こんな人におすすめの作品です。
- 湊かなえさんの本はだいたい読んだ人
- 2人の少女が何かするところを読みたい人
- イヤミスマニア
湊かなえさんの作品はミステリーと言いながらミステリーじゃないことが多いです。
別にそれが良いとか悪いとかではないんですが、「殺人事件!→犯人は誰だ!」っていう流れではないってことで。
あらすじ
内容(「BOOK」データベースより)
親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら、死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。ふたりとも相手には告げずに、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く―死の瞬間に立ち合うために。高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー。
すれ違う親友同士の友情
湊かなえさんといえば、互いの認識違いによるすれ違いを書くのが非常に上手い作家さんです。
本作品は由紀と敦子が互いを思いやっているけど、イマイチそれがお互いに伝わっていないのを描いています。
「すれ違い」というと悪いイメージの言葉ですが、本作品はすれ違うからこその美しさがそこにはあります。
そもそも人と人なんて、育ってきた環境も違えば考えていることも違うわけで、「分かり合う」っていうのは無理なんですよね。
僕は「人の気持ちを考えて行動しよう」という助言というか説教に対して、「考えても分かんないし」っていう思いでいっぱいでした。
それは 「理解できない」とか「想像できない」とかではなく、「この場合、あの子の気持ちはこういうパターンかああいうパターンのどちらかだけど、そのどちらかが判断できない」という感じです。
湊さんはその「分かり合えるはずがない」というところを出発点とし、それを前提に物語を紡いでいるので、僕は好きだなって感じています。
目の前5センチしか見えない人たち
僕たちは目の前で起きていることのみを「世界」として認識し、なかなか遠くまでは見渡せまん。
例えば、コンビニの冷蔵庫に自分が入っている写真をツイッターに上げたりっていうのが話題になりましたが、あれも、あの写真が拡散されたときの影響を考えていないがゆえに起こっています。
「考えていない」というよりは、「考えられない」と言ったほうが適切かもしれません。
僕たちは「友達」とか「先生」、「親」については「世界」の一部として認識していますが、「友達の友達」とか「先生の子ども」なんかは「世界」からは外れてしまいます。
そして、僕たちは「世界」から外れたことに対してなんと無関心であることか。
それは本作品の登場人物たちだけじゃなく、現実世界の僕たちにも当てはまるでしょう。
少し違うかもしれませんが、夏目漱石の「こころ」において、「先生」が
平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです
と発言する部分がありますが、少し本作品にも通じる部分があると思います。
イヤミスもここまで来ると・・・
話の展開はおもしろいと思うんです。
前作の「告白」よりは凝っているというか。
ただ、「告白」と違って嫌な後味の悪さなんですよね。人によっては「告白」の結末も嫌いかもしれませんが。
イヤミスには違いないんですが、イマイチ好きにはなれない作品です。
まとめ
個人的には湊さんの作品の中ではかなり下位になってしまいます。
これを読むぐらいならほかのどの作品でもいいかなって思ってしまいました。
★★★湊さんのおすすめ作品★★★
デビュー作です。イヤミスの原点。
最近文庫化されました!イヤミスではないけど、かなりおすすめ!