「ナコルルのアイヌヘイトスピーチ問題」を語る人は「ヘイトスピーチ」の定義を理解しているのか
今回は、はてなブログのサイトでもトップページに表示されていた、「アイヌに対するヘイトスピーチ」について書いていきますが、まずは、問題にされている発言が「ヘイトスピーチかどうか」について特化して書いていきます。
今回の問題について
今回、ネット上でどんなヘイトスピーチがなされたかというと、この記事が分かりやすくまとめてくれています。
対戦格闘ゲームでアイヌ人設定の美少女キャラ「ナコルル」がかなり性能よくて強いと。ナコルル使いに押されるプレイヤーが「アイヌは殺す」とtwitter上で発言したと。
あとはここのtogetterも分かりやすくまとめてくれています。
このあたりについて、大きく批判を展開しているのがこちらのブログ。
はてぶのコメントとかも含めるといろんな意見が飛び交っていて混乱してくるので、こういうときは問題を細かく切り分けると議論しやすいので、そうします。
まずは、「ヘイトスピーチとは何か」、「今回の発言はヘイトスピーチかどうか」に注目します。
ヘイトスピーチとは何か
まず、ヘイトスピーチとはどういうものかというのをwikipedia先生で見てみます。
『知恵蔵mini』(朝日新聞出版)では「匿名化され、インターネットなどの世界で発信されることが多い。定義は固まっていないが、主に人種、国籍、思想、性別、障害、職業、外見など、個人や集団が抱える欠点と思われるものを誹謗・中傷、貶す、差別するなどし、さらには他人をそのように扇動する発言(書き込み)のこと」を指すとされ、インターネットにおける書き込みも「スピーチ」に含むと解説している。
というのがとりあえずの定義っぽいですが、「日本のヘイトスピーチ」というページを見るとこんな記述も見つかりました。
・知恵蔵miniでは「人種や宗教、性別、性的指向など自ら能動的に変えることが不可能な、あるいは困難な特質を理由に、特定の個人や集団をおとしめ、暴力や差別をあおるような主張をすることが特徴である。」とされている。
・大阪市の条例では、「特定の人種や民族の(1)社会排除(2)権利の制限(3)憎悪や差別意識をあおること−−のいずれかを目的とし、人を中傷したり身の危険を感じさせたりする表現活動」と定義している。
・朝日新聞は「特定の人種や民族への憎しみをあおるような差別的表現」、「人種や国籍、ジェンダーなど特定の属性を有する集団をおとしめたり、差別や暴力行為をあおったりする言動を指す。」、「特定の人種や民族、宗教などの少数者に対して、暴力や差別をあおったり、おとしめたりする侮蔑的な表現のことを言う。」などとしている。
・猪木武徳は「何が「ヘイトスピーチ」となるのか、どのような憎悪や差別感情の表出を「ヘイトスピーチ」とみなすのかについて、紛れのない判定基準が存在するわけではない。」としている(産経新聞)。
・岩田温は「民族、宗教、性別、性的指向等によって区別されたある集団に属する全ての成員を同一視し、スティグマを押しつけ、偏見に基いた差別的な発言をすること」と定義している(産経新聞)。
・師岡康子は「ヘイトスピーチとは、広義では、人種、民族、国籍、性などの属性を有するマイノリティの集団もしくは個人に対し、その属性を理由とする差別的表現であり、その中核にある本質的な部分は、マイノリティに対する『差別、敵意又は暴力の扇動』(自由権規約二〇条)、『差別のあらゆる扇動』(人種差別撤廃条約四条本文)であり、表現による暴力、攻撃、迫害である。」としている。その他の反ヘイトスピーチを掲げる一部論者らも、ヘイトスピーチとなる要素として、マイノリティに向けられていること、個人では変更困難な属性に基づくこと、表現による暴力であることを挙げている。
これを見るとそれぞれで微妙に定義が違っていて、「民族や人種、性別、性的志向等、生まれ持った性質に対する差別的発言」というのは共通しているようなんですが、「マイノリティに対するもの」というのを性質のひとつに加えているものもありますね。
これらを見ると明らかなんですが、「ヘイトスピーチ」には固まった定義はないんですよね。
人によってはヘイトスピーチかもしれませんし、人によってはそうではないかもしれません。
ただ、今回の件に関しては、僕は「ヘイトスピーチではない」という立場にいます。
今回の発言は「ヘイトスピーチ」か
上で紹介した定義を見つつ、今回の発言がヘイトスピーチと呼ばれるものかどうかについて見ていきたいと思います。
もう一度、今回問題の発端となった発言を見てみますと、
対戦格闘ゲームでアイヌ人設定の美少女キャラ「ナコルル」がかなり性能よくて強いと。ナコルル使いに押されるプレイヤーが「アイヌは殺す」とtwitter上で発言したと。
ということです。
この発言は、その文脈から明らかなように「アイヌ民族に対して悪意を向けて発された」ものではなく、ナコルルという特定のゲームのキャラクターがアイヌ民族であり、そのキャラが強すぎて、「アイヌは殺す」と発言したものです。
上で紹介したように、知恵蔵miniではヘイトスピーチを「人種や宗教、性別、性的指向など自ら能動的に変えることが不可能な、あるいは困難な特質を理由に、特定の個人や集団をおとしめ、暴力や差別をあおるような主張をすることが特徴である。」としており、大阪市の条例では「特定の人種や民族の(1)社会排除(2)権利の制限(3)憎悪や差別意識をあおること−−のいずれかを目的とし、人を中傷したり身の危険を感じさせたりする表現活動」としています。
さて、これらを見たとき、本当に今回の発言が「ヘイトスピーチ」に該当するんでしょうか。
僕は該当しないと思います。
なぜなら、発言者はあくまでもゲームのキャラクターが強すぎるがゆえに、「アイヌは殺す」と発言したのであって、前後の文脈を見れば「アイヌ民族をおとしめ、暴力や差別をあおるような主張」ではないことは明白です。
また、「アイヌ民族の社会排除、権利の制限、憎悪や差別意識をあおること、のいずれかを目的」としていないことも明らかです。
「ゲームと現実の区別はついている、現実のアイヌに敵意はない」という主張ははたして本当だろうか。わたしはアイヌに関して完全に部外者だけれど、もしも当事者だったらこのような攻撃にどれほど傷ついたかわからない。
これに対して反対派は「前後の文脈がどうであろうと『民族名+殺す』とTweetすることは紛れもないヘイトスピーチであり、被差別者である少数民族にとっては現実の脅威だ」と主張している。
と批判もされていますが、定義を見る限りは発言者の意図がどうであるかが重要であって、実際に誰かが傷ついたか、脅威に感じたかというのはヘイトスピーチかどうかを議論するにあたっては関係ないようです。
まあ、逆に言うと、誰かが傷ついていないにしても、憎悪をもって、差別を煽るような目的でなされた発言であれば、ヘイトスピーチに分類されるみたいですね。
ヘイトスピーチ解消法
ちなみにですが、ヘイトスピーチ解消法という法律が最近できたそうなので、そちらも見てみます。この第二条において、この法律における「ヘイトスピーチ」を定義していますが、
この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。
となっています。ここでも「差別的意識を助長し又は誘発する目的で」とか「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」と書かれていますので、やはり今回の発言が「ヘイトスピーチ」に該当するかというと、そうではないと言わざるを得ません。
誤ったレッテル貼り
ここまでを見ると、総合的に考えて今回の発言は「ヘイトスピーチ」ではありません。
もしくは、「ヘイトスピーチと断言できる理由はない」という結論になります。
それなのになぜ、「これはヘイトスピーチだ!」と断定する人がいるのでしょう。
なぜ、「ヘイトスピーチ」と決めつけて、アカウント停止まで追い込むのでしょう
「この発言で傷ついた人がいる」のであれば、「ヘイトスピーチではないのに、ヘイトスピーチだと通報をして、アカウント停止された人がいる」も正しいです。
今回の問題を見ていて、そして、「ヘイトスピーチとは何か」を調べていて、今回のアカウント停止された人が本当に気の毒で気の毒でなりません。
誰かを傷つける発言をした人に対して、ヘイトスピーチとレッテルを貼って通報し、アカウント停止に持っていく権利は誰にもありません。
まあ、サービスを提供しているtwitter側に停止するかどうかを決める権限があるので仕方ない部分もありますが、赤の他人が誤ったレッテルを貼り、それによって不利益を受けるというのは不憫で仕方ありません。
まとめ
今回の記事は、「ヘイトスピーチとは何か」という側面から問題について書いてみました。まあ、本質的に「ヘイトスピーチかどうか」という定義上の話は大きな問題ではないと思いますが、まずはそこから話を考えるほうがいいかと思って、この記事を書きました。
次回は『「私は不快に感じた!」は言論を規制する理由になるか』といった主旨の記事を書こうと思います。
以上、本日もあめおど管理人がお送りいたしました。