雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。

体は社会人、心は自由人。三十路間近のネコ好き。日記や日々考えたこと、社会問題、ときどきサッカー。

【感想】さよならドビュッシー(中山七里): スポ根好きにもおすすめなミステリー

中山七里さんはすごく文章そのものが好きな作家さんのひとりです。

ストーリーももちろん好きですが、それを抜きにしても、描写だけでも楽しめます

そんな中山さんのデビュー作品、「さよならドビュッシー」を紹介します。  

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

 

内容(「BOOK」データベースより)

ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。第8回『このミス』大賞受賞作品。

 

ミステリーとしては、ミステリーをよく読む人にとってはそこまで高い評価が得られないかもしれません。

しかし、僕は初めて読んだミステリーが本作品であったため、最後の種明かしには本当に驚きました。

種明かしされてからもう1度読み直すと、いろんなところに真相に至るヒントが隠されており、それらの緻密さに驚かされた覚えがあります

 

まさかのスポ根もの!? 

本作品はミステリーとしてではなく、スポ根ものとしても非常に楽しめる作品に仕上がっています。というより、最後の謎解きがたとえ残念なものであったとしても、おすすめしたい作品である地位は揺るぎません。

主人公の遙は小説の冒頭で火事に巻き込まれてしまい、一命を取り留めたものの火傷の後遺症でまともにピアノを弾くことができません。

彼女に手を差し伸べたのが岬洋介という若手のピアノ奏者。

この岬という男、イケメンでピアノの腕も相当なもので、さらに頭も切れるという超人設定です。

この超人は、普通の教え方とは違う、一見エキセントリックな教え方をしながら、それは理論に裏付けされたものであるという、指導者としても相当な腕前の持ち主。

遙のモチベーションの上げ方も秀逸です。

 

指導者の教え方は上手なんですが、やはり火事による後遺症から短期間で復活するのは並大抵の努力ではできないことです。

本人の取り組み方がもっとも重要なことは間違いありません。そして、この小説ではこの部分が大きく取り上げられています。

 

遙の努力、ドビュッシーへの思い、ピアノに対する信念。

それらが丁寧にかつ大胆に描かれており、読み進めるうちに熱いものがこみ上げてきます。

最後の発表会でのシーンの熱さもさることながら、小説の冒頭とリンクする部分もあり、鳥肌ものです。また、タイトルにも納得することでしょう。

 

まるで音が聞こえてくるかのような

描写がすばらしいです。

ドビュッシーなんて聞いたこともなかったですし、クラシックに触れる機会もほとんどないものの、中山さんの描写からはまるで音が再生されてくるかのような感覚を覚えます。

上にも書きましたが、丁寧にかつ大胆に表現されており、勢いよく読める部分とそうでない部分の差、メリハリの効いた文章に引き込まれること間違いなしです。

 

こちらは、橋本愛さん主演のもと、映画化もされています。こちらは主人公の心情を押し出した、小説とは一味違った良い作品になっているので、興味がある方は是非。 

 

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