【感想・書評】境遇(湊かなえ):イヤミスでもなく、ほっこりでもなく
今回は湊かなえさんの「境遇」の感想を書いていきます。
本作品は、テレビドラマ化を前提に書き下ろされた作品とのことです。
今回も極力ネタバレはなしにしてあります。
あらすじ
(AMAZON内容紹介から)
デビュー作の絵本『あおぞらリボン』がベストセラーとなった陽子と、新聞記者の晴美は親友同士。
共に幼いころ親に捨てられ児童養護施設で育った過去を持つ。
ある日、「真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状とともに、陽子の息子が誘拐された。
「真実」とは一体何なのか。そして犯人は……。巻末に絵本『あおぞらリボン』(文・みなとかなえ 絵・すやまゆうか)を収録。
中途半端な作品
っていうのが読後の印象です。
湊かなえらしいイヤミスでもなければ、「絶唱」や「山女日記」と比べるとどうしても劣ってしまう。そんな作品。
ミステリーという観点から見れば、伏線が上手く散りばめられており、楽しめないわけではないんですが、他の作品と比べると、「湊かなえらしさ」があまり発揮されていない作品でした。
僕は音楽の好みでもそうなんですが、こぎれいにまとまっているものより、荒くてもいいから尖っているもののほうが魅力的に感じます。
そう考えると、「境遇」は毒にも薬にもならないような作品でした。
それなら毒にしかならないけど、「少女」のほうがまだましかな、と。
なぜこんなにも魅力的に感じないのだろうと考えたんですが、内面の掘り下げ、過去の掘り下げがあまりないかな、と。
湊かなえさんの作品は内面描写、特にドロドロとした人間の醜い部分であったり、正直なところをまっすぐ描くのが特徴なのに、本作品はそういう部分がなく、全体的に薄っぺらく感じてしまうんですよね。
もっと主人公2人の挫折というか、苦悩が生々しく書かれていたらもっと好きになっていたと思います。
「境遇」の力
本作品は施設で育った晴美と施設に預けられ、すぐに養父母に引き取られた陽子が主人公となっており、テーマはタイトルそのもの、「境遇」です。
人は境遇により絆が結ばれることもありますし、古くはロミオとジュリエットのように境遇によって絆が裂かれることもあります。
境遇って残酷だなと思うのは、自分ではどうしようもない部分も大いにあるということです。
特に「どういう家庭環境で育ったか」というのは、生まれてくる親を選べない以上、そこには運しかありません。
どんなに遺伝子的に優秀で優しい子であったとしても、虐待が日常の家庭に生まれてしまえば、まっすぐ育つのは難しいかもしれません。
仮にまっすぐ育ったとしても、「片親の子(施設で育った子)とは結婚させない」という価値観の老人もまだまだいるでしょう。
個人的には「不幸な境遇にも負けずに立派な大人になろう」とか「○○は恵まれない環境でも立派な人徳者になったんだ」とかいう話は、好きではありません。
「生まれ育った環境がすべて」と主張する気はないんですが、ある一定ラインを超えるとどうしようもないことってあります。
でも、「だから、努力しても無駄なんだ」と言う気もありません。
「努力は必ず報われる」は嘘ですし、「成功したものは努力している」というのも正確ではありません。
「努力をすれば成功する確率が高くなる」だけであり、成功していないからといって努力が不十分であるかといえば、そうとも限りません。
成功していなくても、血のにじむような努力をしている人をたくさん知っています。
本作品の2人は、どちらかといえば境遇を乗り越え、また境遇ゆえに絆が育まれた部分もありますが、「境遇」というタイトルにする以上、もっと「境遇ゆえの葛藤、苦悩」が描かれていたら、と思ってしまいます。
まとめ
僕の感想だと、本作品は数ある湊かなえさんの作品の中ではかなり下の方のなってしまいます。
イヤミスが苦手な方にはおすすめ、かな。
それでも個人的には「絶唱」や「山女日記」、「物語のおわり」のほうが良かったので、それらを読み終わった後にでも手に取ってください。
以上、本日もあめおど管理人がお送りいたしました。
デビュー作です。イヤミスの原点。
最近文庫化されました!イヤミスではないけど、かなりおすすめ!